(読者様からのご質問)
「時間は存在しない」という書籍の内容をわかりやすく教えてください。
(オレンジャーからの回答)
ご質問いただきありがとうございます。
カルロ・ロヴェッリの『時間は存在しない』という本は、私たちの「あたりまえ」を根底からひっくり返す、魔法のような科学の本です。私の解釈が中心となりますが、なるべくわかりやすく解説してみたいと思います。
●はじめに:時間は「流れる川」ではない?
みなさんは「時間」と聞くと、何を思い浮かべますか? おそらく、過去から未来に向かって、宇宙のどこでも同じ速さでチクタクと流れている「目に見えない川」のようなものを想像するでしょう。
しかし、現代の物理学、特にロヴェッリたちが研究している世界では、その「時間の川」は存在しないことがわかっています。私たちが信じている時間は、実は人間が作り出した「幻想」に近いものなのです。
●時間の「正体」がバラバラになる
まず、ロヴェッリは私たちが信じている時間のルールを一つずつ壊していきます。
山の上と下で、時間の速さは違う
信じられないかもしれませんが、高い山の上と、海に近い地上では、時間の進む速さが違います。 山の上の方が、時間はほんの少しだけ「早く」進みます。アインシュタインが予言したこの事実は、現代の精密な時計で実際に証明されています。つまり、宇宙には「たった一つの正しい時刻」なんて存在しないのです。
「過去」と「未来」の区別がない
理科の方程式(物理法則)をミクロな世界で見てみると、驚くべきことがわかります。そこには「過去から未来へ流れる」という方向が決まっていないのです。映像を逆再生しても、物理学的には何の違和感もない。私たちの世界で「卵が割れる(過去→未来)」のは当たり前ですが、ミクロの粒子の世界では、右に行くのも左に行くのも、過去に行くのも未来に行くのも、実は平等なのです。
「今」はあなただけのもの
「今、アンドロメダ銀河で何が起きているか?」という問いに、答えはありません。なぜなら、光の速さには限界があり、場所によって時間の進みがバラバラだからです。「今」という感覚は、あなたの周りのごく狭い範囲でしか通用しない、ローカルな感覚にすぎません。宇宙全体で共有できる「今この瞬間」というラインは、どこにも引けないのです。
●世界は「物」ではなく「出来事」でできている
ロヴェッリの考え方で最もエキサイティングなのが、「世界をどう見るか」という視点の変化です。
これまでの私たちは、世界を「石」や「机」や「星」といった、そこにずっとあり続ける「物(もの)」の集まりだと考えてきました。しかし、ロヴェッリは言います。「世界は『出来事(こと)』のネットワークだ」と。
「物」:石、山、スマホ(ずっとそこにあるように見える)
「出来事」:キス、雨、試合、雲(起こって、変化して、消えていく)
例えば、一見ずっとそこにあるように見える「石」も、何十億年という長い時間で見れば、変化し、砕け、別のものへと変わっていく「ゆっくりとした出来事」にすぎません。
私たちの体もそうです。「中学生のあなた」という物体が固定されているのではなく、毎日細胞が入れ替わり、考えが変わり、成長し続ける「変化のプロセス」そのものが「あなた」なのです。
世界は、写真のような静止画の集まりではなく、複雑に絡み合った「動き」の連続なのです。
●なぜ私たちは「時間の流れ」を感じるのか?
時間が存在しないなら、なぜ私たちは「昨日」を思い出し、「明日」を楽しみにして、年をとっていくのでしょうか? ロヴェッリは、それは私たちが「宇宙のすべてを知ることができないからだ」と言います。
エントロピーと「ぼやけ」
例えば、トランプの束をきれいに並べても、混ぜればバラバラになりますよね。これを「エントロピー(散らかり具合)が増大する」と言います。物理学で唯一、時間の方向を決めているのがこのルールです。
でも、もし私たちが宇宙のすべての粒子の動きを完璧に見ることができたら、実は「散らかっている」も「整っている」も区別がつきません。私たちが「時間の流れ」を感じるのは、宇宙の細かな動きが見えないために、世界が「ぼやけて」見えているからなのです。
ロヴェッリはこれを「情報の欠如(無知)」と呼びます。私たちが宇宙の一部しか見ることができないからこそ、そこに「時間の流れ」という幻影が浮かび上がってくるのです。
●ロヴェッリが伝えたい「知的な癒やし」
この話を聞いて、「時間が存在しないなんて、なんだか寂しい」と感じるかもしれません。でも、ロヴェッリの言葉はとても温かいものです。
彼はこう言います。
「私たちは時間の中にいるのではない。私たちは時間なのだ。」と
時間は、私たちの外側に流れている冷たい機械のようなものではありません。私たちが何かを感じ、記憶し、誰かと関わり、変化していく……その「生きているプロセスそのもの」が、時間の正体なのです。
つまり、私たちはイマココを「出来事」として生きているということです。
時間が一本の線ではないのなら、「過去に縛られる」ことも「未来を怖がる」ことも、実はあまり意味がありません。
大切なのは、今、あなたという場所で起きている「出来事」を大切にすることです。あなたは、宇宙という壮大なネットワークの中で、今この瞬間にだけ輝く「特別なゆらぎ」なのです。
ロヴェッリの教えは、科学の力を使って、「今、この瞬間を精一杯生きることの美しさ」を教えてくれている気が私はします。


コメント