昨日の忘れ物
図書室の窓際。
いつも同じ席に座る先輩は
時々「未来」を忘れていく。
昨日は、来週発売されるはずの雑誌。
今日は、明日降るはずの雨で濡れた傘。
「先輩、これ」
傘を差し出すと
先輩は不思議そうに目を細めた。
「君、それが見えるんだ。僕と同じ『時間の迷子』かな」
先輩の手が僕の手に触れた瞬間
モノクロだった景色に色がつく。
「一人だと寂しいから、明日、一緒に雨に濡れてくれない?」
翌日。予報は晴れだったが
僕たちの頭上だけには
約束通りの優しい雨が降った。
相合傘の中、僕たちは「今日」を歩き始めた。
(完)


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