雪の上の足跡

雪が降り積もる夜、私はついにあいつを突き落とした。
別荘のバルコニーから崖下へ。
翌朝には雪がすべてを覆い隠し、事故死として処理されるはずだ。
私は自分の足跡がつかないよう、スノーシューを履いて慎重に裏口から戻った。

「よし、これで自由だ」

翌朝、警察がやってきた。

「遺体が見つかりました。ですが、不審な点がありまして」

「……足跡でもあったんですか?」

私はわざとらしく震えて見せた。

雪は昨夜のうちに止んでいる。
私の足跡は、新雪の下に隠れているはずだ。

「いいえ、足跡がないのが不審なんです」

刑事は崖の上を指差した。

「被害者の足跡が、バルコニーの手前でパタリと消えている。
 まるで空へ飛び去ったかのように」

私は血の気が引くのを感じた。

「雪が積もる『前』に彼を突き落としたせいで、彼の足跡は雪の下。
 なのに、その後の雪の上に誰の足跡もない。……
 つまり、犯人は『雪が止んだ後』に、
 足跡を残さない特殊な履物で現場を掃除したか、去っていった。そうですね?」

積もるのを待つはずの雪が、私の工作を「不自然な空白」として浮き彫りにしていた。

(完)

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