『掘り起こされた嘘』
エフ氏が遺した偽の遺言から
およそ千年が経過した。
人類は
その間に幾度かの大変動と
技術革新を経験していた。
かつてのエフ氏の家があった場所は
地殻変動と都市開発の波に飲まれ
記憶の片隅に追いやられた
「エフ聖地」という名の遺跡となっていた。
コンクリートで固められたその場所は
風化と堆積物で覆われ
もはや原形を留めていなかった。
西暦3026年。
地球環境の急激な変化に対応するため
人類は
大規模な地下都市建設プロジェクトを
進めていた。
その掘削作業中
古代都市層の深部から
奇妙な人工物が発見された。
「隊長
ここは……何か
変です。
土壌の組成が異常に硬く
古代のコンクリートと見られます。
そして
その下から
微弱なエネルギー反応が
検出されています」
発掘チームのリーダーである
考古学者ゼット博士は
現場に急行した。
「コンクリートだと?
この深さで
しかも
この時代のものにしては
異常な強度だ。
慎重に掘り進めろ!」
数日間の作業の末
巨大なコンクリートの塊が
露わになった。
そしてその中央から
千年前に
エフ氏が埋めた
金属製の箱が姿を現した。
箱は驚くほど劣化しておらず
微かに発光していた。
「これは……!
千年前の記録にある
『エフ聖地』の
あの聖なる遺物か!」
ゼット博士は
歴史書で読んだ
「エフ聖人」の伝説を
思い出した。
人々に
「純粋な愛」をもたらし
自らの命を捧げたという
その崇高な逸話。
「この中には
人類の未来を導く
『黄金律』が
記されているのかもしれない!」
ゼット博士は
厳重なセキュリティの下
その箱を
最新の研究施設へと
持ち帰った。
彼は
歴史に名を残す
大発見を前に
興奮を抑えきれなかった。
箱は
最新の解析装置でも
開くのに難航した。
しかし
ついに
その硬質な蓋が
ゆっくりと開き
中から半透明の薄い板が
取り出された。
ゼット博士が
それを手に取ると
研究室の壁一面に
千年前に
エフ氏が見たのと同じ
鮮やかな立体映像が
投影され始めた。
映し出されたのは
エデンを追われる
アダムとイブの
背中の管理番号。
ノアの箱舟という名の
宇宙船。
海を割るモーゼの
重力制御装置。
ゼット博士は
映像の内容を
瞬時に解析した。
彼の時代の人類は
すでに
高度なAIと
膨大なデータアーカイブを
有しており
映像に映る技術の
ほとんどを
理解することができた。
「これは……
神話ではなかった。
古代の地球文明は
外部の高度な知性体によって
意図的に
コントロールされていた
というのか!」
研究室にいた
全ての研究員が
映像が示す真実に
戦慄した。
彼らが信じてきた
歴史
宗教
そして
人類の起源。
全てが
壮大な「嘘」によって
構築されていたのだ。
映像の最後に
疲れた顔の
エンジニアが
映し出された。
「……以上が
我々が捏造した
『地球文明・偽装記録』の
全容である。
……この記録媒体を
未来の彼らが
発見することがあれば
それは彼らが
我々の技術を
理解できるほどに
進歩した証拠であり
同時に
この『嘘』という支えがなくても
生きていけるほどに
成熟したことを意味する。
……おめでとう。人類。
君たちはついに
神という虚像を
卒業したのだ」
ゼット博士は
映像の最後のメッセージに
乾いた笑いを漏らした。
「千年……
千年もの間
私たちは
この『嘘』の上に
安住し
それを
『純粋な愛』だと
崇めてきたのか」
そして彼は
千年前にエフ氏が残した
偽の遺言を思い出した。
「『純粋な愛』だと……
あの男は真実を知りながら
人類のために
あえて嘘を
上塗りしたのだ。
しかし
その嘘さえも
我々を操る者たちの
手のひらの上で
転がされていたとは」
人類はついに
自分たちが
高度な文明の
「実験動物」であった
という真実を
知ってしまった。
しかし
その真実が
もたらしたのは
解放感ではなかった。
研究室の壁に
投影された映像の
さらにその奥。
千年ぶりに起動した
記録媒体から
微弱な信号が
発せられていることに
誰も気づいていなかった。
それは
地球軌道上の
巨大なステーションに滞在する
「エンジニア」たちへの
システムからの自動報告だった。
「ターゲット種族
ホモ・サピエンス。
千年サイクル
ディスカバリーフェーズ
完了。
『偽装記録』の解読を確認。
『卒業メッセージ』の受信を確認。
実験フェーズ
『真実の受容と反応』へと
移行します」
ステーションの
メインモニターには
ゼット博士たちの
混乱する様子が
映し出されていた。
「やれやれ
ようやく気付いたか。
しかし
これで終わりではない。
これは
新たなゲームの
始まりに過ぎない」
エンジニアの一人が
にやりと笑い
コンソールに
新しいコマンドを
打ち込んだ。
地上では
ゼット博士が
混乱する研究員たちに向かって
叫んでいた。
「我々は
真実を知ってしまった!
しかし
これからどうすれば……」
その時
研究室の壁に
映し出されていた映像が
突然更新された。
そこには
まるで
新たなスタート画面のように
挑発的なメッセージが
浮かび上がった。
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CONGRATULATIONS, HUMANITY.
YOU’VE UNLOCKED LEVEL 2.
YOUR NEXT MISSION:
SURVIVE THE TRUTH.
WE’VE ONLY JUST BEGUN.
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(訳)
おめでとう人類。
レベル2を
アンロックしました。
次のミッション
真実の中で生き残れ。
我々はまだ
始まったばかりです。
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ゼット博士は
絶望に打ちひしがれた。
エフ氏が
命を賭して隠し
千年もの間
人類を欺いてきた
「神の嘘」。
その嘘が
暴かれた時
人類は
自由を
手に入れるどころか
さらなる
巨大な
そして
予測不能な
「ゲーム」の渦中に
放り込まれたことを
知るのだった。
そして
空の上では
エンジニアたちが
新たなデータ収集に
期待を膨らませていた。
「彼らが
真実を受け入れた後
どのような『宗教』を
生み出すのか。
あるいは
我々への『反乱』を
試みるのか。
楽しみだな(笑)」
(完)


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