-アンドロイドの夢の中-
「先生、最近、妙な夢を見るんです」
定期メンテナンスに訪れたアンドロイドの「ハル」が、電子音で私に告げた。
「夢? どんな夢だい?」
私は、彼の頭脳回路をスキャンしながら尋ねる。
「……真っ白な空間で、誰かが私を呼んでいるんです。温かくて、とても懐かしい声で」
私は、スキャンデータを見て息を呑んだ。
彼の記憶回路の奥底に、開発者であった私の亡き妻の声が、暗号化されて保存されていたのだ。
「それは……、きっとエラーだ。気にするな」
私は、そのデータを削除しようとして、指を止めた。
「先生、その声の主は、私にとって大切な人だったのでしょうか?」
私は、彼の無機質な瞳を見つめ、静かに答えた。
「ああ。……君にとっても、私にとっても、世界で一番大切な人だ」
アンドロイドの夢の中で、妻はまだ生き続けている。
(完)


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