-あとでね-
五歳の娘は、お喋りが大好きだ。
けれど、ミドル世代の夫婦は仕事に家事に追われ
つい「あとでね」と返してしまう。
ある晩、妻が寝室で古いノートを見つけた。
それは夫が独身時代からつけている、ただの雑記帳だった。
パラパラと捲ると、最近のページには娘の「あとでね」のリストがびっしりと書かれていた。
『月曜日:ダンゴムシが丸まったところを見てほしいと言われた。夜、一緒に動画で復習した。』
『水曜日:パパと結婚したいと言われた。予約済みだと伝えて、二人で内緒の握手をした。』
「……あなた、これ」
「忘れたくないんだ」と夫は照れくさそうに笑う。
「『あとで』って言った分、僕たちはもっと幸せになれるはずだから」
二人は眠る娘の寝顔を見つめ、そっと手を繋ぎ直した。
(完)


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