『豊穣の惑星』
銀河系の片隅に位置する
ある監視基地。
そこでは
地球担当の調査官であるエフ氏が
モニターに映し出される
膨大なデータに
満足げな溜息をついていた。
「素晴らしい。
今期の収穫量は
過去最高を記録しそうだ」
エフ氏の仕事は
地球という惑星で
「魂」という名の資源を
栽培・管理することだ。
かつて、
地球の魂は
とても扱いにくい代物だった。
戦争
飢餓
嫉妬
憎悪
そうした
ドロドロとした感情を含んだ魂は
いわば
「野生の木の実」のようなもので
アクが強く
そのままでは食卓に出せない。
精製コストがかさむのが
長年の悩みの種だったのだ。
「以前は
宗教という名の保存食に
するしかなかったからな」
エフ氏は
傍らに控える助手に
語りかけた。
「神への恐怖や戒律で
縛り上げた魂は
どうにも塩辛くていけない。
だが、今回の
『スピリチュアル・マーケティング』の手法は
革命的だった」
エフ氏が考案した新手法は
実にシンプルだ。
まず
地球人の知能レベルに合わせた
「疑似科学」と
「自己肯定」を
ブレンドした思想を
流布させる。
「あなたは
あなたのままで素晴らしい」
「宇宙が
あなたを愛している」
「念じれば
幸運は
向こうからやってくる」
こうした
甘い言葉のスパイスを
大量に振りまくことで
地球人の魂は
抵抗力を失い
ブヨブヨと
肥大化していく。
「ご覧なさい。
この個体などは
思考することを放棄して
純粋な『幸福感』という糖分だけで
構成されている」
モニターには
一人の地球人女性が
映っていた。
彼女は
部屋に飾られた
高価な開運グッズに囲まれ
うっとりと目を閉じている。
彼女の魂は
エフ氏たちのセンサーで見ると
熟れすぎた果実のように
ピンク色の光を
放っていた。
「収穫のタイミングは
彼らが完全に
『現実』という名の
不純物を認識しなくなった
瞬間だ。
交通事故や病気といった
ショックを与えて
魂を肉体という殻から
剥離させる。
これが
一番新鮮で
甘みが強い」
「しかし
エフ調査官。
これほどまでに
効率よく収穫を続けては
地球という畑が
枯れてしまいませんか?」
助手が
不安げに
尋ねた。
エフ氏は
皮肉たっぷりに
笑った。
「心配ない。
地球人は
繁殖力が強いし
何より
彼らは自ら進んで
肥育場(ジム)や
セミナーに通い
自分たちを
『美味しく』
整えてくれるのだからな。
我々はただ
流行という名の肥料を
定期的に撒けばいい」
その時
基地のアラームが
鳴った。
新しいロットの魂が
転送装置を通じて
到着したのだ。
エフ氏は
届いたばかりの魂を
一つ取り出し
検品用の
特殊なフォークで
軽く突いた。
「……ん?
なんだこれは」
エフ氏の顔が曇った。
その魂は
表面こそ
美しいピンク色をしていたが
芯の部分に
ピリッとした
「疑念」という名の
スパイスが残っていた。
「この個体
最後に少しだけ
正気に戻りやがったな。
自分が
騙されているのではないかと
ほんの一瞬だが
考えた跡がある。
これでは
高級レストランには
卸せない。
混ぜ物用の
加工品行きだ」
エフ氏は
忌々しそうに
その魂を
安価な処理バケツへと
放り込んだ。
完璧な幸福
完璧な受容
完璧な無知。
それこそが
彼らにとっての
「A級グルメ」なのだ。
「さて、次は
『宇宙の波動と一つになる
瞑想キャンプ』という
新商品を投入しよう。
あれは
魂をよく熟成させるんだ」
エフ氏は
次の仕掛けの準備に
取り掛かった。
モニターの向こう側では
何百万もの地球人が
「自分を磨いて
より高次元の存在になりたい」
と願いながら
せっせと自分の魂を
異星人のディナーに
ふさわしい
甘いデザートへと
作り替えていた。
ふと
エフ氏は
基地の天井を
見上げた。
「そういえば……
我々の上位存在も
最近
妙に我々に対して
『幸福であれ』という
メッセージを
送ってきているような
気がするが……
まあ
気のせいだろう」
エフ氏は
自分の胸の奥に湧いた
ほんの微かな
「違和感」を
最新の自己暗示装置で
即座に消去した。
彼自身の魂もまた
非常に美味しそうな
輝きを放ち始めていた。
(続く)


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