予備の心臓

-予備の心臓-

「最近、胸が痛むの」

彼女が言うので、僕は彼女の胸元のチャックを開け、心臓を取り出した。
彼女の心臓は、使い古された単三電池のように液漏れを起こしていた。

「ああ、これは『片思い』のしすぎだね。電極が錆びているよ」

僕はコンビニで買ってきた「予備の心臓(徳用パック)」を取り出し、新しいものと交換してやった。
カチリと音がして、彼女の頬に赤みが差す。

「ありがとう。でも、前の心臓に入ってた思い出はどうなるの?」

「大丈夫、SDカードに移しておいたから。パソコンがあればいつでも再生できるよ」

彼女は満足そうにチャックを閉め、スキップで帰っていった。
僕は道端に捨てられた彼女の古い心臓を拾い上げ、中から漏れ出た真っ黒な「未練」を雑巾で拭き取った。

(完)

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