-垂直の恋-
彼と付き合って三ヶ月。
私たちは一度も地面を歩いたことがない。
彼は重力が垂直に働く特異体質で、常に壁を歩いているからだ。
「こっちへおいでよ」
壁の上から手を伸ばす彼。
私は梯子を登り、壁に背中を預けて彼と抱き合う。
「重力って不便だね」 彼が呟く。
私は彼の首に腕を回し、自分の体の向きを無理やり九十度回転させた。
ミシミシと骨が鳴り、私の視界も垂直になった。
「本当ね。でも、こうすれば私たちは一生、誰にも踏まれない場所で踊れるわ」
私たちは壁を舞台にして、ゆっくりと天井へ向かってワルツを踊り始めた。
下界では、私の靴だけがポツンと地面に取り残されていた。
(完)


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