-予備の顔-
彼女は、デートのたびに顔を付け替える。
「今日は『清楚』の気分なの」
カチリ、と音がして、彼女の首の上に陶器のような白い顔がはまった。
僕はそれを見て、
「前の『熱情的』な顔も好きだったよ」
と、足元に転がっている彼女の古い顔を拾い上げる。
「あら、あれはもう電池切れよ」
新しい顔の彼女は、僕の唇に冷たいキスをした。
「でも安心して。もしあなたの愛が冷めたら、私、あなたの顔になっちゃうから」
翌朝、鏡を見ると、僕の顔は彼女が昨日ゴミ箱に捨てたはずの「憂鬱」な顔になっていた。
彼女はそれを見て、「お揃いね」と満足そうに笑った。
(完)


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