わすれもの

-わすれもの-

大学の卒業式、彼は言った。

「このペン、君にあげる。僕だと思って大事にして」

それから五年。
慣れない仕事に追われる彼女の鞄には、インクの切れたそのペンがずっと入っていた。
ある雨の日、お気に入りのカフェで彼女はペンを落としてしまう。

「あ、すみません」

拾い上げたのは、見覚えのある手だった。

「これ、まだ持っててくれたんだ」

顔を上げると、少し大人びた彼が笑っていた。

「インク、入れ直しに行こうか。一生分」

止まっていた時間が、春の風と共に動き出した。

(完)

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