重力のすれ違い

-重力のすれ違い-

「地球の重力は、やっぱり重いな」

火星育ちの彼は、不器用そうに笑いながら、私の手を取った。

彼は火星環境に適応するため、骨密度が低く、
地球では専用のスーツを着ないとまともに歩けない。
それに対して、私は普通の地球人だ。

「でも、君と手をつないでいる時だけは、重力を忘れるよ」

私たちは、ガラス越しに青い地球を眺める。

彼はもうすぐ、火星へ帰らなければならない。
医療技術が進歩しても、私たちが同じ重力下で一生を共にすることは、まだ不可能なのだ。

「次は、私が火星に行くね」

私が言うと、彼は「待ってる」と答え、スーツ越しに私の額にキスをした。

その瞬間、宇宙ステーションの人工重力が少しだけ優しくなった気がした。

(完)

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