-三度目のプロポーズ-
「今さら、恥ずかしいわよ」
五十五歳の誕生日の夜。
ホテルのレストランで
彼女は照れくさそうにワイングラスを揺らした。
一度目は二十代、勢いで。
二度目は四十代、離婚の危機のあとの仲直りで。
そして今日、彼は三度目の箱を取り出した。
「一回目は『幸せにする』と言った。
二回目は『ずっと一緒にいよう』と言った」
彼は少し震える手で、彼女のシワが刻まれた手に指輪を滑らせる。
「三回目は、『君より先に死なない努力をする』。
これが僕の、最後のわがままだ」
若さという輝きを失ったあとに残ったのは
ただ、相手の明日を願うだけの純粋な愛だった。
二人は静かに笑い、冷めかけたコーヒーで、三度目の未来に乾杯した。
(完)


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