-読みかけの交換日記-
離婚届を出す前夜、夫婦は書斎の整理をしていた。
埃をかぶった段ボールから出てきたのは
結婚当初に一ヶ月だけ続いた交換日記だった。
「懐かしいわね。あなた、字が今よりずっと丁寧だわ」
妻が苦笑しながらページをめくる。
そこには、今日の献立への感謝や、将来の子供の話が綴られていた。
最後の一ページ。そこは空白のはずだったが
夫が万年筆を手に取り、二十年越しの続きを書き始めた。
『今日は、君の焼いた魚が少し焦げていた。
でも、それが世界で一番愛おしい味だと、ようやく気づいた。』
夫は日記を閉じ、妻の手に重ねた。
「この続き、また明日から書いてもいいかな。今度はもっと、ゆっくりと」
破り捨てられるはずだった書類は、いつの間にか夜風に吹かれて、ゴミ箱の隅へと追いやられていた。
(完)


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