-カレーライスの和解-
「また同じ具材ばかり買ってきて」
週末のスーパーで、妻が少し尖った声を出した。
共働きで子育ても一段落し、会話といえば家事の分担か予定の確認。
情熱はいつの間にか、日常という砂に埋もれていた。
その晩、夫は黙ってキッチンに立った。
作っていたのは、結婚前に一度だけ彼が振る舞った「激辛カレー」。
「懐かしいわね、これ。まだレシピ覚えてたの?」
「……あの時、君が『これがあれば一生頑張れる』って言ったから」
刺激的な辛さの中に、隠し味のリンゴの甘みが広がる。
「私たち、少し煮込みすぎたのかもね」
妻の目尻に溜まった涙を、夫は不器用な手首で拭った。
二人の間の冷え切っていた空気は、カレーの湯気と共にゆっくりと溶けていった。
(完)


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