-三度目のダンス-
「踊ってくれませんか、マダム」
結婚記念日。高級なレストランではなく、思い出の古いジャズバーで、夫は少し照れながら手を差し出した。
かつてはスマートに踊れたステップも、今では膝や腰を庇いながらの不格好なものだ。
「昔より、ずっと足が重いわね」
「僕の腹が出たせいかな。でも、君を支える安定感は増しただろう?」
音楽がスローに変わる。お互いの体重を預け合い、静かに揺れる時間は、若い頃の煌びやかなダンスよりもずっと心地よかった。
「ねえ、いつまでこうしてくれるの?」
「君が僕のステップを忘れるまで。それか、僕が君の名前を忘れるまで」
銀髪の混じった二人の影が、古いレコードのノイズに溶け込んでいく。
それは、若さを捨てた代わりに手に入れた、永遠という名の安らぎだった。
(完)


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