嘘つきな隣人

-嘘つきな隣人-

「隣の部屋の男には気をつけろ。あいつは前科者だ」

そんな噂を耳にしながらも、
私は隣人の佐藤さんに惹かれていた。

彼は口数が少なく、いつも重そうな黒いバッグを抱えて夜中に帰ってくる。
ある日、彼の部屋から「ガシャン!」と何かが割れる音と、女性の短い悲鳴が聞こえた。

私は震える手で警察に通報しようとした。
けれど、その前に佐藤さんが私の部屋をノックした。

「……見てしまいましたか?」

彼のシャツには、赤い斑点がついている。
私は覚悟を決めてドアを開けた。

「佐藤さん、自首してください」

「自首? これをですか?」

彼が差し出したバッグの中から出てきたのは、
真っ赤なイチゴのソースまみれになった、崩れたケーキだった。

「実は、料理教室に通ってるんです。
 君の誕生日に、手作りケーキを贈りたくて。
 でも、派手にひっくり返して、先生役の妹に怒鳴られちゃいました」

噂の「前科」も、実は「学生時代に親の車をこすった」という笑い話だった。

「嘘つき」な彼が隠していたのは、不器用すぎる私への愛だったのだ。

(完)

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