-20年目の味見-
「また塩、入れ忘れたでしょう」
夫が苦笑しながら味噌汁を啜る。
妻は「あら、失格ね」と笑いながら、自分の碗を手に取った。
若い頃の彼女は、完璧主義で料理教室にまで通っていた。
それが最近では、どこか抜けている。
夕食後、夫は台所でこっそり塩の瓶を高い棚の奥に隠した。
実は知っている。
彼女の手が少し震えるようになったことも、物忘れが増えたことも。
「明日も、塩を入れ忘れていいよ」
夫は妻の肩を抱き寄せ、白髪が混じり始めた髪にキスをした。
「僕が、一生かけて君の味を調えるから」
それは、若い頃の情熱的な愛よりも、ずっと深く静かな誓いだった。
(完)


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