-魔法が溶けたあと-
「もう、シンデレラって年齢でもないけれど」
彼女は玄関で、新しく買った少し派手なヒールを眺めてため息をついた。
かつての恋人は、いつも「華やかな君が好きだ」と言っていた。
けれど、今の夫は隣で黙って古びたスニーカーの紐を結んでいる。
「外は雨だよ。そんな靴じゃ滑る」
夫は彼女のヒールをそっと靴箱に戻し、代わりに歩きやすそうなローファーを差し出した。
「王子様は迎えに来ないかもしれないけど、僕が駅まで傘を持って歩くよ。
何歳になっても、君を転ばせたくないからね」
鏡に映る自分は確かに年を重ねていたけれど
夫が差し出した傘の下は、どんなお城の舞踏会よりも温かな光に満ちていた。
(完)


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