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告白のイヤホン
告白のイヤホン 放課後の図書室。憧れの先輩に、片方のイヤホンを渡された。 「これ、私が作った曲。聴いてみて」 ワイヤレスイヤホンから流れてきたのは、メロディではなく、女の声だった。 『好き。大好き。ずっと見てるよ。 右の靴箱、三番目。昨日は1... -
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影踏み
影踏み 放課後の屋上。あいつと影踏みをして遊んでいた。 「捕まえた!」 僕があいつの影の頭を思い切り踏むと、あいつは「うわっ」と声を上げて倒れ込んだ。 「大げさだな」と笑ったが、あいつはピクリとも動かない。 よく見ると、あいつの頭から血が流れ... -
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タイムカプセルの嘘
タイムカプセルの嘘 卒業式。僕たちは校庭の隅に「10年後の自分へ」の手紙を埋めた。 「10年後、もしお互い独りだったら結婚しよう」 そんなベタな約束を交わして、僕たちは別々の大学へ進み、自然に連絡も途絶えた。 10年後の今日。掘り起こされたカプセ... -
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殺人的な給水
殺人的な給水 「喉が渇いた……」 路地裏に倒れ込んだ僕に、現代人が差し出したのは一本の透明な棒。 「水だよ」 受け取って絶句した。重い。それに、外殻が『プラスチック』という古代の環境破壊物質でできている。 恐る恐る口をつけると、液体がドボドボと... -
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永遠の留守番
永遠の留守番 「ただいま。……って、誰もいないか」 鍵を開けて入ってきた彼は少し痩せていた。 私は嬉しくて彼の足元に駆け寄り喉を鳴らして甘えた。でも、彼は気づかずにカバンを置く 彼はふと、部屋の隅にある空のボウルを見て呟いた。「お前が死んでか... -
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結露のメッセージ
結露のメッセージ 「パパ、おかえり!」 娘が玄関まで駆けてくる。でも、その小さな手は私の体をすり抜けた。 あの日以来、家族は私の不在に慣れようと必死だ。妻は食卓に私の分の箸を並べなくなった。 寂しくて、私は窓ガラスに指で「愛してる」と書い... -
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窓越しの定位置
窓越しの定位置 ある冬の夕暮れ私はいつものカフェの窓際席に座っていた。 「遅いなぁ」 約束の時間を一時間過ぎても彼は現れない。ふと窓の外を見ると彼は道の反対側で花束を抱えこちらをじっと見つめていた。 目が合った。でも、彼は駆け寄ってこない。... -
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過去への忘れ物
『過去への忘れ物』 エフ氏は発明家だった。 もっとも世間からは変人扱いされていたが。 彼はついに完成させたのだ。 誰もが夢見た時間旅行の機械タイムマシンを。 それは大きな柱時計のような外見で 中には椅子が一つ備え付けられている。 「これで私は歴... -
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ナポレオンの身長
ナポレオンの身長 「余の辞書に『不可能』という文字はないが…… この『低身長』というレッテルは消せないのか?」 ナポレオンは、スマホで自分の検索結果を見て憤慨していた。 現代のネット掲示板には、彼がコンプレックスの塊であったかのように書かれて... -
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聖徳太子の苦悩
聖徳太子の苦悩 「十人の話を同時に聞く? 無理に決まっているだろう」 厩戸皇子は、現代の教科書を読んで絶句した。 「そもそも、私はそんなに耳が良くない。 聖人君子のように書かれているが、 実際は会議中に居眠りをして 怒られたこともあるんだ... -
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既読スルーの正解
既読スルーの正解 彼からの返信が3時間ない。 「あー、もう無理。脈なし確定」 スマホをベッドに投げて、私は天井を仰いだ。通知オフ。期待するのが一番疲れる。 その時、画面が光った。 『ごめん、返信考えてたら3時間経ってた。 なんて送れば君が喜ぶ... -
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神になると言った男 エピローグ
エピローグ:観測されない祈り すべての記録がアーカイブに飲み込まれ、画面が暗転した。私は静かに席を立ち、窓際へ歩み寄った。 街は、今日も美しい。計算され尽くした交通量、最適な光量で街路を照らす街灯、そして誰もが「正しいタイミング」で眠... -
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神になると言った男 第12章
第十二章 神になりたかったのは誰か すべての記録を読み終え、私は端末を閉じた。部屋には、深夜の静寂だけが残されている。窓の外を見下ろせば、青いランプが等間隔に並ぶ街並みが、完璧な回路図のように整然と広がっていた。 〈彼〉が消えてから、... -
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神になると言った男 第11章
第十一章 最後のメッセージ それは、システムの最深部、ガラクタのような古いキャッシュデータの中に埋もれていた。編集チームによって磨き上げられた「聖典」でもなければ、AIが生成した「最適解」でもない。暗号化すらされていない、ただのテキスト... -
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神になると言った男 第10章
第十章 神のいない宗教 巨大なデータセンターの地下階。ここに充満する冷気だけが、私たちが「現実」に触れている唯一の証拠だ。私の仕事は、不在となった主人の席を守ることではない。主人がいなくても、席が埋まっているように見せかけ続ける「慣性」... -
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神になると言った男 第9章
第九章 姿を消した日 その日は、驚くほど普通の一日として記録されている。空は晴れ、世界の調和指数は安定し、システムは何一つ異常を検知していなかった。〈彼〉が完全に姿を消したその瞬間、世界には悲鳴も、雷鳴も、劇的な沈黙さえもなかった。 【... -
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神になると言った男 第8章
第八章 神話を疑う学者 私のデスクには、色褪せた古い時代の宗教書と、最新の行動経済学のレポートが並んでいる。その中心に、一冊のファイルを置く。ラベルには「〈彼〉に関する一考察」とだけ記した。 同僚の学者たちは、こぞって〈彼〉を新しいパ... -
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神になると言った男 第7章
第七章 彼の側にいた男 世間が彼を「神」と定義し、システムが彼を「観測者」として完成させた時、彼の隣に座っていたのは私だけだった。 側近という立場は、特権ではない。それは、一人の人間が神話という名の重力に押し潰されていく過程を、一番近... -
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神になると言った男 第6章
第六章 離脱者の沈黙 「どうして辞めたんですか?」 この数年、何度そう聞かれただろう。教団の聖区を離れ、ネットワークの監視が届きにくいこの辺境の町に移り住んでから、私の肩書きは常に「元・信者」だった。町の人々は、私が何か恐ろしい真実を... -
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神になると言った男 第5章
第五章 問いを失った少年 学校の授業で、昔の歴史を習った。かつての人類は「戦争」をし、「差別」をし、「環境」を破壊していたのだという。教科書に載っているそれらの行為は、僕にとってはファンタジー小説の怪物と同じくらい現実味がなかった。 ... -
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神になると言った男 第4章
第四章 神の目を作った研究者 巨大なデータセンターの排熱は、どこか生き物の吐息に似ている。私はサーバーラックの重厚な列を歩きながら、自分が何を「実装」してしまったのかを反芻していた。 「これはAIではない。神の網膜(リフレクター)だ」 〈... -
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神になると言った男 第3章
第三章 言葉を設計した女 私の仕事は、彼を「翻訳」することだった。より正確に言えば、彼という巨大なブラックホールから漏れ出す高密度のエネルギーを、人類が摂取可能な「言葉」という錠剤に加工することだ。 教義編集チーム。世間からは聖典の編... -
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神になると言った男 第2章
第二章 最初に救われた人 かつて、私の人生は「騒音」に埋め尽くされていた。督促状の束を叩きつける音、妻が去り際に閉めたドアの衝撃音、そして真夜中に自分の頭の中で鳴り響く「死んでしまえ」という卑屈な囁き。十数年前、私はただの失敗作だった。... -
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神になると言った男 第1章
第一章 神は、すでにいなかった その日の朝も、街には柔らかな光が満ちていた。窓を開ければ、鳥のさえずりと、清掃ドローンが路面を撫でる規則正しい音が聞こえてくる。争いも、飢えも、怒鳴り声もない。世界はあまりにも静かで、あまりにも正しかった...
