-補聴器の秘密-
「お父さん、また補聴器外してるの?」
娘の呆れた声に、父はただニコニコと笑っている。
母が亡くなってから五年、父の耳はめっきり遠くなった。
「静かでいいんだよ」
と父は言うが
隣で小言を言う母がいなくなって、
世界を閉ざしてしまったようにも見えた。
ある夜、娘は父が一人で仏壇に向かって話しているのを見かける。
そこには、しっかりと耳に差し込まれた補聴器があった。
「……お前の声は、これがないと聞こえないからな」
父は仏壇の遺影に語りかけていた。
「外の音はもういいんだ。お前が夢で話しかけてくれた時、一文字も聞き逃したくないんだよ」
父が補聴器を大切にしていたのは、今も続いている「二人だけの会話」を守るためだった。
(完)


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