– 30通の「おめでとう」-
母が亡くなったのは、娘が十歳の時だった。
それから毎年、娘の誕生日には母からの手紙が届いた。
「二十歳になったあなたへ」
「就職したあなたへ」
父は「お母さんが魔法を使って預けていったんだよ」と笑い、娘はその手紙を支えに生きてきた。
三十歳の誕生日。
最後の一通を読み終えた娘は、ふと違和感に気づく。
手紙の筆跡が、後半になるにつれて、少しずつ、少しずつ父の字に似てきているのだ。
「……お父さん、これ」
問い詰める娘に、父は照れくさそうに頭を掻いた。
「お母さんが書けたのは十五歳までだったんだ。でも、お前を一人にしたくなくてね。母さんならこう言うだろうって、想像して書き足したんだよ」
手紙は母の言葉であり、父の二十年間の祈りでもあった。
娘は父の節くれだった手を握り、初めて、手紙の中ではなく目の前にいる愛に、心から「ありがとう」と伝えた。
(完)


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