ショートストーリー– category –
-
ショートストーリー
左手のリマインダー
-左手のリマインダー-彼はいつも、私の左手の薬指を「予約済み」と言って甘噛みする癖があった。 結局、喧嘩別れをして三ヶ月。私は新しい街で、彼を忘れるために必死に働いていた。 仕事帰りの夜道、後ろから「すみません」と声がした。 振り返ると、少し... -
ショートストーリー
7秒間の再会
-7秒間の再会-「人は、七秒間目が合うと恋に落ちるらしいよ」 高校の屋上で彼女が笑って言った言葉を、僕は十年経っても覚えていた。 そんな訳ない。僕たちは三年も一緒にいて、何万回も目が合っていたのだから。 雨の駅のホーム、反対側に立つ女性と目が... -
ショートストーリー
わすれもの
-わすれもの- 大学の卒業式、彼は言った。「このペン、君にあげる。僕だと思って大事にして」それから五年。慣れない仕事に追われる彼女の鞄には、インクの切れたそのペンがずっと入っていた。 ある雨の日、お気に入りのカフェで彼女はペンを落としてしま... -
ショートストーリー
秘密のレシピ
-秘密のレシピ-「お母さんの肉じゃが、どうしても再現できないんだ」 新婚の妻が項垂れる。彼は笑って「いいよ、十分美味しいから」と慰めるが、確かに何かが違った。母が亡くなる前、最後に遺したメモには『隠し味:少しの冒険』とだけ。 ある日、妻が「... -
ショートストーリー
屋上からの景色
-屋上からの景色-「ねえ、一緒に飛ぼう?」 彼女は僕の手を握り、屋上のフェンス越しに微笑んだ。 学校でのいじめ、親との不和。絶望の中にいた僕を救ってくれたのは、同じ悩みを持つ彼女だった。 「怖くないよ。二人なら、きっとどこまでも行ける」 僕た... -
ショートストーリー
予備の心臓
-予備の心臓-「最近、胸が痛むの」 彼女が言うので、僕は彼女の胸元のチャックを開け、心臓を取り出した。 彼女の心臓は、使い古された単三電池のように液漏れを起こしていた。 「ああ、これは『片思い』のしすぎだね。電極が錆びているよ」 僕はコンビニ... -
ショートストーリー
完璧なアリバイ
-完璧なアリバイ-「私は、あの日、ずっと家にいました。アリバイは完璧です」 私は刑事に、平然とそう答えた。 犯行時刻、私は自宅でオンラインゲームに熱中していた。ゲームのログには、私がログインし、数時間プレイしていた記録が残っている。 「ログを... -
ショートストーリー
浮気の地層
-浮気の地層-彼が嘘をつくたび、足元の地面が数センチずつ盛り上がっていく。「仕事で遅くなっただけだよ」その言葉が終わる頃には、彼はリビングの天井に頭をぶつけていた。 「ねえ、もう五メートルは積もってるわよ。その地層、何?」私はスコップを持っ... -
ショートストーリー
ラブレターの成分表示
-ラブレターの成分表示-「これ、読んでください!」 後輩の女の子から渡されたのは、ピンク色の封筒ではなく、真空パックされた「液体」だった。 「……これは何かな?」 「私の『好き』という気持ちを液状化したものです。不純物なしの100%抽出液です」 裏... -
ショートストーリー
割り勘の境界
-割り勘の境界-「僕たち、価値観が合わないみたいだ。別れよう」 三年の交際にピリオドを打つ瞬間、彼はカッターナイフを取り出した。 「思い出も、全部きれいに半分にしよう」 彼はまず、二人で撮った写真を物理的に真っ二つに切り、次に共有していたNetf... -
ショートストーリー
言葉を届けるポスト
-言葉を届けるポスト-そのポストに手紙を入れると、宛先がなくても、世界で一番その言葉を必要としている人の元へ届くという。 ただし、書けるのは「誰にも言えなかった、優しい嘘」だけだ。 ある日、一人の少年が震える手でハガキを投函した。 『僕はもう... -
ショートストーリー
感情のクリーニング店
-感情のクリーニング店-街の片隅に、汚れではなく「感情」を洗うクリーニング店がある。 「すみません、この『悲しみ』を落としてください」 失恋したばかりの女性が、泥のように重く湿った心を持ち込んだ。店主の老人は、それを丁寧に預かり、一晩かけて... -
ショートストーリー
記憶のカレーライス
-記憶のカレーライス-彼が亡くなって、一年が経った。 彼は料理が下手だったけれど、年に一度、私の誕生日だけはカレーを作ってくれた。 ジャガイモが大きすぎて、少し焦げた、不格好なカレー。 私は一人で、彼の残したレシピノートを開く。 そこには『玉... -
ショートストーリー
行ってきますの魔法
-行ってきますの魔法-結婚して十年。共働きの私たちは、朝の時間は戦場のようだった。「ねえ、燃えるゴミ出した?」「あ、忘れてた!」そんな会話ばかりで、顔を見る暇もない。 ある日、テレビで「家を出る前のハグは幸福度を上げる」という話を見た。翌朝... -
ショートストーリー
アンドロイドの夢の中
-アンドロイドの夢の中-「先生、最近、妙な夢を見るんです」 定期メンテナンスに訪れたアンドロイドの「ハル」が、電子音で私に告げた。 「夢? どんな夢だい?」 私は、彼の頭脳回路をスキャンしながら尋ねる。 「……真っ白な空間で、誰かが私を呼んでいる... -
ショートストーリー
ゴミ捨て場の歌姫
-ゴミ捨て場の歌姫-都市の最下層にある、スクラップだらけの「ゴミ捨て場」。私は、そこで壊れた歌唱用アンドロイドの「メロディ」を拾った。声帯回路が損傷し、彼女は歌うどころか、喋ることもできない。それでも、私は彼女を修理し、毎日、彼女の体を磨... -
ショートストーリー
重力のすれ違い
-重力のすれ違い-「地球の重力は、やっぱり重いな」 火星育ちの彼は、不器用そうに笑いながら、私の手を取った。彼は火星環境に適応するため、骨密度が低く、地球では専用のスーツを着ないとまともに歩けない。 それに対して、私は普通の地球人だ。 「でも... -
ショートストーリー
パラレルワールドの珈琲
-パラレルワールドの珈琲-「いらっしゃいませ。当店は、並行世界のコーヒーを提供するカフェです」 マスターが恭しく、琥珀色の液体をカップに注ぐ。 私は半信半疑で、そのコーヒーを口にした。 「……あれ?」 景色が一瞬、歪んだ。 私は、今の会社ではなく... -
ショートストーリー
星屑のラジオ
-星屑のラジオ-宇宙貨物船の操縦士である僕は、広大な虚空に飽き飽きしていた。 楽しみは、骨董品屋で買った「超空間ラジオ」を弄ることだ。 このラジオは時折、数光年、あるいは数世紀離れた場所からの、ノイズ混じりの放送を受信する。 ある日、ラジオか... -
ショートストーリー
百年目のアップデート
-百年目のアップデート-「おじいちゃん、またその古い型のアンドロイドを直してるの?」 孫娘が呆れたように、僕の手元を見る。 僕が修理しているのは、百年前に製造された家事手伝いロボットの「アイ」だ。 「これはな、おばあちゃんが最後に使っていた、... -
ショートストーリー
3分前の消しゴム
-3分前の消しゴム-その消しゴムで書いた文字を消すと、現実の「三分間」が白紙に戻る。 私は大事な商談で大失敗した瞬間、それを使った。 ……気がつくと、会議室に入る直前の廊下に立っていた。 「よし、今度は完璧だ」 私はスラスラとプレゼンをこなし、... -
ショートストーリー
幸せの場所
-記憶の現像液-亡くなった祖父の遺品整理で見つけた、古びたカメラ。シャッターを切ると、被写体の「一番幸せだった記憶」が写真として現像される不思議な道具だった。 試しに飼い犬を撮ると、私と一緒にボール遊びをしている写真が出てきた。庭の花を撮る... -
ショートストーリー
感情翻訳機
-感情翻訳機-近未来、誰でも本音がわかる「感情翻訳機」が発売された。恋人と喧嘩をした夜、私はそのイヤホンを耳に突っ込んだ。「もう顔も見たくない! 出て行って!」私の叫びを、翻訳機は淡々と耳元で変換する。『本当は引き止めてほしい。一人になるの... -
ショートストーリー
窓越しの挨拶
-窓越しの挨拶-入院生活が三ヶ月を過ぎた頃私の楽しみは「窓の外のクレーン」を眺めることだった。 向かいのビル建設現場。豆粒のように見える作業員たちがせっせと働いている。 ある日、私はふと思い立ってスケッチブックに大きく『お疲れ様です』と書い...
